Teaching Excellence Awards for 2007


A detailed report is shown further below.
This report was copied from Hokkaido University's 2009 annual self-evaluation report: excellent teachers identified through student surveys. This document is available in the Japanese language only.
下記記事は北海道大学点検・評価報告書(H20): 授業アンケートによるエクセレント・ティーチャーズより転載。
英語3-64C メディア・コミュニケーション研究院/外国語教育センター准教授 河合 剛
1.授業構成
この授業の構成は下記の通り。所属はいずれも当時。
- 科目: 2007年2学期水曜3時間目 外国語必修科目 英語3-64C
- 学生: 医学部看護学科1年生 (男14人, 女36人, 合計50人)
- 教室: メディア・コミュニケーション研究棟CALL教室110号室 (定員58人)
- 教員: 河合 剛 (メディア・コミュニケーション研究院および外国語教育センター 准教授 -- 問い合わせ先は本文書末に記載)
- 全部の授業を支援した者: teaching assistant 1人 (国際広報メディア・観光学院 修士1年生), conversation partner 1人 (札幌在住)
- 一部の授業を支援した者: 留学体験者3人 (法学部4年生、工学研究科 修士1年生、農学研究科 博士3年生)、conversation partner 1人 (カリフォルニア在住)
2.学習目標と学習契約
看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士といった医療専門職にたずさわる心づもりの学生は、患者の検査や治療の能力が要求されることを顕在知として持ち、かつ、患者との会話能力が要求されることを暗黙知として持っている。外国人患者に出会う可能性を学生に指摘すれば、英語を介して医療に従事する動機づけが顕在化する。患者の来院に始まり、問診、検査、診断、精算、処方にいたる長い医療英会話を全員が実施できるという学習目標を第1回目の授業で提案し、学生の同意を得た。なお私はアメリカでの患者経験が豊富で、小児科病院の医療通訳でもあったので、指導力を信頼されやすかった。
3.学習環境と学習行動
会話練習の質と量を高めるため、会話指導者を増員し、白衣や聴診器といった小道具を用意し、会話を録音・再生できる装置を配備した。以下、授業風景やコンピュータ画面の写真を通じて、学習環境と学習行動を説明する(図1から5)。
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図1 教室全景。 CALL (コンピュータ支援言語学習) 教室は外国語接触の質と量を高められる。教員支援者を配置して教員対学生比を1:17とした。一般に、有効な会話練習には1:15未満が望ましい。授業の流れは、最初がポイント説明、続いて二人一組での練習、小休止をかねた漫談(アメリカの医療事情などを紹介)、再び練習、最後に会話を録音し提出する。会話練習装置は自宅などからも使えるので予習・復習しやすい。

図2 臨場感の高い会話練習。 白衣や聴診器を身につけると子供だましとわかっていても興奮する。喜びや怯えといった感情の高まり(ワクドキ感)が技能の定着を促す。医療従事者は患者に親身に接し信頼されなければならないので、相手の目を見続ける、落ち着いて明瞭に話す、明確な指示を与えて胸部レントゲンを撮影する、滑らかな所作で脈を取る、といった専門家にふさわしい全身行動の体得が重要。よって立姿で練習する。大学生を起立させると奇妙がるが、理由を説明すれば応じてくれるし、すぐ慣れる。

図3 会話練習装置。 患者と看護師の両側のセリフを級友や教員らと二人一組で学ぶ。本授業の学生は将来看護師などになるので医療従事者のセリフを学ぶ必要性は説明不要。患者側のセリフを学ぶ理由は何を言われても理解できるよう相手のセリフを予測するため。自分で言えれば、他人に言われても分かりやすい。会話のポイントは鮮明に記述されており、最初はセリフを1つずつ話す(上図の吹き出し番号順に個別練習)。次に会話をよどみなく通して話す。前回までの課題を反復しつつ授業が進むので、授業のたびごとに会話が長くなる。いつのまにかスラスラ言えるようになる。 なお、この会話練習装置は本学で発明され、本学のプロジェクト研究実施経費などを用いて実装された先進的外国語教育技術である[1][2]。

図4 ゲスト講師。 患者役の男性がカリフォルニアから来てくれた。初対面かつ英語しか話せない人と会話できるか?彼の症状は?どの薬にアレルギーがあるんだって?会話の変化球をこなす。ゲストがセリフを間違えると学生が爆笑しつつゲストに正解を指導できた。経験に基づく確かな自信。 学生が一歩成長した。

図5 留学体験談。 Ohio State University での交換留学から戻った理学部3年生が留学の理由、手順、不安、感動などを紹介した。学生は学部や学年が異なっていても他の学生になつく。「世界を見よう!」といったメッセージは教員よりも学生が発信する方がよい。 教員が述べると説教でも、先輩が述べると貴重な助言。学生の目線からいつのまにか離れてしまった我が身を嘆きつつ、3人の留学体験者を呼んだ。
4.学習成果と改善計画
会話能力を評価するためには学生を個別に測定しなければならない。授業時間内に会話試験を実施すると待機中の学生が退屈するし不公平かもしれない。学生数が多いと授業時間だけでは足りないので、授業外に面接せねばならず予約調整が不便。学生同士に会話させれば同時に二人を試験できるものの、パートナーの能力が低いと自分の能力が十分に発揮できない恐れがある。これらの問題を克服するため、学生たちが模擬電話装置[3]を使いたいと希望したので、本来は電話会話練習用のツールを利用して会話能力を個別に測定した(図6)。対人会話を電話越しに行なう不自然さがもたらす測定誤差もさりながら、全身行動を観察できないので測定変数が限られてしまうのが欠点であった。よってビデオを用いた対人会話練習装置の開発を進めている。

図6 電話会話練習装置。 本授業で練習した医療英会話は電話むきでないこと、ならびに電話会話練習装置を用いるのは試験のための便宜措置であることを学生が理解した上で、電話ごしに録音されたセリフに学生が応答した。患者役・医療従事者役それぞれの会話を通して録音した。教員が学生の録音を聞いたところ、学生全員が会話をよどみなく完了できることがわかった。学期のはじめには誰も知らなかったことがらを全員ができるようになったわけである。相対評価による成績分布の公平化といった議論が無意味に感じられる高い習得率であった。
5.結論
本授業の長所は2つある。
- 一般教養科目でありながらも、本学の特徴である分野別クラス編制を活用し、学生の進路に直結した具体的な学習目標 に合意した。
- 教員対学生比が劣悪ながらも、多人数が会話を学習 できるよう、教員支援者と自動学習設備を増強し、それぞれの利点を組み合わせた。
本授業の短所は2つある。
- 要求される資源(人材・機材・教材)が多い。十分な教育には十分な環境が必要。組織体力がなければ継続できない。
- 学習体験が短い。本学の英語は同じ教員が同じクラスを継続して教えない。複数学期にまたがって能力を積み上げられない。
私が本報告書を執筆現在 (2009-02-16)、オンライン学習環境下において学生同士が教え合う手法を開発しつつある。問題解決行動の習得と組み合わせれば有効かもしれない。しかし言語学習は少人数・長時間・一気呵成が近道である。
6.参考文献
[1] glexa (general learning experience architecture) http://glexa.net/
[2] Goh Kawai and Akio Ohnishi "GlexaMotion, an audiovisual comprehension learning experience" WorldCALL-2008, Fukuoka, Japan (2008-08-06)
[3] Goh Kawai, Yasushi Kawai and Akio Ohnishi "The design and field test of Voice Chat, an asynchronous tool for exchanging voice messages" 日本音響学会講演論文集, Sendai, Japan (2005-09-27)
7.問い合わせ先
